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ツルンといくもの

古山です。

受験シーズンで、今年も高校受験生を一人援助していました。

カフェを借りて週1回やっている寺子屋の生徒でした。
千葉県の公立高校は2回試験があるのですが、その子は、前期試験で落ちてしま
った。ふだん寺子屋で、点数を取らせるような教育はしていないもので、多少の
責任を感じて、マンツーマンで見ていました。

落ちるはずのない子なんだがなあ、と思いながら授業をしてみると、言葉だけツ
ルーンと滑ってしまう。本人は「うん、うん、わかった」と言うのですが、字面
しか読み取っていない。問題の中に入り込めない。

これは、ストレスの一種なのです。なにかしら緊張があって、言葉だけで対応し
ている。思考と感情が動かない。

学校で、成績が芳しくない生徒のかなりが、この状態になっています。

2月になった時点で、いまさら詰め込み勉強をやったところで、タカが知れてい
ます。とにかく、モノをいじらせるのと、しゃべらせて対話するようにしました。
そうすると緩んでくるのです。緊張が緩むと、実力以上の点を取るものです。

マッチを擦り、割り箸を燃やしていると、学校のことなどぺらぺらしゃべるよう
になりました。それに、あいずちを打ったり、ちょっと質問を入れたり。だんだ
ん、対話になってきます。

読書好きの子だったので、国語を中心に教えました。教えるといっても、私は国
語などどう教えていいかわからない。「主人公はどういう気持ちでしたか」なん
て設問されると、ジンマシンが出そうになります。

面白いものをたくさん読んでいるとわかってくるのさ、しかないから、面白いエ
ッセーや小説を生徒と読んでいます。

今の中学の教科書にはどれも魯迅の「故郷」が載っています。「故郷」は20世
紀短編小説の白眉だと思うので、受験生と一緒に読んでみました。

辛亥革命後の中国。
故郷の家族は零落して、家を売り払う。それに立ち合うために「私」は故郷に帰
る。気のあった幼なじみに出会うと、生活にやつれた姿になっている「私」に
「旦那さま」という態度を崩さない。何気ない人々の描写の中に、時代と社会の
苦悩まで浮かび上がってくる。
社会的、歴史的背景を知らないと深みがわからない小説だから、そこは解説しな
がら読みました。まるで、現代史の授業になってしまった。

生徒は、登場人物に「なんて奴なんだ」という思いをぶつける。
うん、まあ、それでもいいけどね。

この小説の味わいがわかるようなら、受験なんて難なくこなせるのさ、と思って
いるのですが、やはり、「確実に問題慣れさせたほうがよかったか」みたいな一
抹の不安は残ります。

数日後、「合格した」という電話が本人からありました。

古山明男

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古山明夫

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